中東の大国・イランの人たちは、日本にどんなイメージをもっているのか。ルポライターの若宮總さんは「イラン人は日本人に並々ならぬ信頼を寄せ、日本文化に対しても熱い視線を注いでいる。だが、日本人のイランに対するイメージは乏しい。私はこれを『壮大な片想い』と呼んでいる」という――。

※本稿は、若宮總『イランの地下世界』(角川新書)の一部を再編集したものです。

イランと日本の旗
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欧米にも中露にも中東にも不信感を抱くイラン

反米国家としてのイメージが強いイランだが、実際にはイラン人の多くが、われわれ日本人と同様に、米国、そしてヨーロッパの文化に対して、親しみと強い憧れを抱いている。とはいえ、19世紀以降は英国とロシア(ソ連)、20世紀に入ってからはこれに米国を加えた三大国の利害に翻弄され、なかばそれらの属国ないし半植民地的な地位に甘んじてきた歴史がある。

欧米諸国は、いったい誰の味方なのか――。イラン人の欧米観の根底に、こうした不信感が横たわっていることを見落としてはならない。

では、イラン人はどの国を信用の置けるパートナーと見なしているのか。

ご承知のように、イランの友好国はロシアと中国であるというのが、一応、国際政治の常識となっている。しかし、実際にこれらの国に対して一般のイラン人が抱くイメージは、欧米先進国よりもさらにひどい。何しろ中露両国は、今やイラン国民最大の敵ともいえるイスラム体制を、強力にバックアップしているのだ。

一方、イランと歴史的、文化的に近しい関係にある中東諸国との関係も、イスラム革命を境に大きく変容した。革命後のイランは、イスラムをイデオロギーに中東地域での影響力拡大を図ってきた。

とくに、パレスチナや、アサド政権のシリア、レバノンおよびイラクのシーア派組織、そして イエメンのフーシ派などが、イランの支援を受けていることはよく知られている。しかし、当のイラン国民はといえば、こうした国々に対して、ほとんど何のシンパシーも感じていない。反体制デモのたびに必ず叫ばれるスローガンのひとつ、「わが命、捧げたい! ガザでもレバノンでもなく、イランのために!」は、そのことを象徴している。